Tilemap の移動コスト管理方法例

はじめに

　Unity の Tilemap(タイルマップ) を使ったゲームのうち、シミュレーションなどの戦略ゲームなどでは、各タイルや座標ごとに異なる移動コストを設定したい場面がよくあります。
ですが Unity の Tilemap そのものにはこういった設定項目はありません。よって何らかの方法を使い、タイル、あるいは座標に移動コストを紐づける必要があります。

　この記事では、代表的な４つの方法についてそれぞれのメリット・デメリットを紹介し、
最も柔軟で管理しやすい方法として【Tile クラスを継承した派生クラス＋スクリプタブル・オブジェクト】による管理方法を解説します。

　個人開発の場合には一人ですべての作業を行うことになりますので、どういった方法を用いても問題は生じないかと思います(作成のしやすさ、処理の重さ、管理のしやすさなどは別にして)。
ですが、プロジェクト単位(チーム制作による分業)の場合、タイル配置や移動コストの設定は、ゲームのレベルデザインに関連する場所であるため、デザイナーやプランナー側の作業になるケースも多いと思われます。
そのため、なるべく Unity の機能を活用しつつ、非エンジニアの方でも管理や修正が効率よく行える環境が重要になります。

　こういった状況を鑑みて、移動コストの設定については、実際に配置する Tile と紐づけた形で管理する方法が有効です。
Tile クラスを継承した派生クラスを作成し、それをスクリプタブル・オブジェクトでデータベース化、インスペクターでの編集や可視化できるようにする方法を紹介します。

　この派生クラスによる Tile も 通常の Tile と同様に扱えるので、Tile Palette 上で使えますし、Tilemap にも貼り付けられます。
そのため、デザイナーやプランナーも使いやすいです。

　以下はサンプルです。
各 Tile に MoveCost や TerrainType といった情報を設定できるようにしています。

　それらをスクリプタブル・オブジェクトで管理し、ゲーム内で MoveCost などの情報を取得できる状態を作り出しています。

　こちらの管理は方法４として紹介しています。

方法１：多次元配列（例：int[,]）でコスト管理

　まずは色々な方法を順番に見ていきましょう。

　Tilemap 上の座標ごとに移動コストを設定したいという要件に対しては、複数のアプローチが考えられます。
それぞれの方法にメリット・デメリットがあるので、実用的な観点から整理しつつ、サンプルコード付きで解説します。

　こちらの方法の特徴は以下の通りです。

　・実装がシンプル
　・タイル数が固定かつ範囲が狭い場合に有効
　・メモリ効率良し・アクセス高速

　・ただし、全マスにコストを定義する前提になる
　・データの可視性が低く、Unity エディタ上での編集が難しい
　・データとTileの見た目の関連性が薄い

　サンプルコードです。

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public class TilemapCostController : MonoBehaviour {

    public int width = 10;
    public int height = 10;
    private int[,] costMap;

    void Awake() {
        costMap = new int[width, height];
        InitializeCosts();
    }

    void InitializeCosts() {
        for (int x = 0; x < width; x++) {
            for (int y = 0; y < height; y++) {
                costMap[x, y] = 1; // 基本コスト
            }
        }

        // 特定のマスだけ重く
        costMap[5, 5] = 3;
    }

    public int GetMoveCost(Vector3Int gridPos) {
        return costMap[gridPos.x, gridPos.y];
    }
}

　こちらの方法が向いてるケースとしては、以下のような場合です。

　・フィールドサイズが決まっている（マップサイズが固定される）
　・全タイルに均等なアクセスがある（未設定マスがない）

　CSV ファイルに多次元配列を用意して読み込ませる方法も一般的です。

方法２：Dictionary<Vector3Int, int> を使った動的マッピング

　Dictionary の Key に Grid(タイルマップのセル)座標を、Value に移動コストをセットにしてマッピングする方法です。

　こちらの方法の特徴は以下の通りです。

　・任意の座標だけにコストを設定可能
　・未設定の場合はデフォルト値を返せば OK
　・動的なデータ管理が可能（可変サイズのマップにも対応できる）
　・スパースなマップに向いている（設定されていないマスが多い）

　・ただし、座標の誤入力などの人的ミスが起きやすい
　・データの初期化・管理が煩雑になりがち
　・Unity エディタでの編集性が低い

　サンプルコードです。

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public class TilemapCostController : MonoBehaviour {
    private Dictionary<Vector3Int, int> costMap = new();

    void Start() {
        costMap[new Vector3Int(2, 3, 0)] = 2;
        costMap[new Vector3Int(4, 1, 0)] = 3;
    }

    public int GetMoveCost(Vector3Int gridPos) {
        return costMap.TryGetValue(gridPos, out var cost) ? cost : 1;
    }
}

　こちらの方法が向いてるケースとしては、以下のような場合です。

　・タイルマップの範囲が広い・未使用マスが多い
　・タイルに個別設定をしたい（柔軟な運用）

　Dictionary の難点の１つに、SerializeField 属性を付与してもインスペクターに表示されない点があります。

方法３：タイルマップを複数用意して種類ごとにコストを決める

　タイルマップを用途に応じたレイヤー構造にして複数作成し、それを重ねて表示するケースがあると思いますが、そちらの機能を利用した方法です。

　こちらの方法の特徴は以下の通りです。

　・複数の Tilemap（例：草地・山・川）を用意して、それぞれにコストを定義
　・見た目や編集が Tilemap Editor 上で完結するので運用が楽（Unityエディタ上で直感的な編集が可能）
　・Tilemap → コスト の対応辞書を作るだけで済む

　・ただし、Tilemapの数が増え複雑化する
　・複数Tilemap間の同期や整合性の問題が発生しやすい（A レイヤーを編集しているつもりが、別のレイヤーだった、など）

　サンプルコードです。

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public class TilemapCostController : MonoBehaviour {
    public List<TilemapCostEntry> costEntries;

    [System.Serializable]
    public class TilemapCostEntry {
        public Tilemap tilemap;
        public int moveCost;
    }

    public int GetMoveCost(Vector3Int gridPos) {
        foreach (var entry in costEntries) {
            if (entry.tilemap.HasTile(gridPos)) {
                return entry.moveCost;
            }
        }
        return 1;
    }
}

　こちらの方法が向いてるケースとしては、以下のような場合です。

　・マップ作成時に Tilemap を使ってレイヤーを分ける運用が確立されている
　・コストの可視化やレベルデザインも重視したい場合

ポイントの整理

　ここまでの３つの方法について、簡単にまとめると以下のようになるかと思います。

条件	推奨方法
全タイルに均等 or 狭い範囲で制御したい	方法1（多次元配列）
マップが広い or 一部のマスだけ設定したい	方法2（Dictionary）
デザイナーと分担したり、Tilemap編集中心で進めたい	方法3（Tilemapごと）

　それではこれらを踏まえた上で、４つ目の方法を紹介します。

方法４：TileBase 継承クラス(Tile クラス)での拡張方法

　TileBase は Unity の Tilemap システムで使われる基底クラスで、実際には Tile などの具象クラスがそれを継承しています。
そして、この Tile クラスをさらに継承して、独自の情報（例：移動コスト、視線透過有無、地形情報など）を持たせることができます。これが「拡張する」という意味です。

　この方法では、Tile を継承した AdvancedTile クラスに移動コストや視界遮蔽などの情報を持たせ、
それらをスクリプタブル・オブジェクト（例：TileDataTable）でまとめて管理します。これにより、エディタ上で管理が可能になり、運用面でも大きなメリットがあります。

　こちらの方法の特徴は以下の通りです。

　・Tile に直接コストが埋め込まれており、スクリプタブル・オブジェクトで一元管理できる
　・スクリプタブル・オブジェクトがあることで、デザイナー・プランナーが直接データを管理できる
　・Tile Pallet に登録して Tile と同じように Tilemap として使い回せる
　・移動コストだけでなく、Tileごとに属性、エフェクトなども直接 Tile 内に定義して追加できる
　・拡張性が高く、視界遮蔽、地形補正、天候との相性要素なども追加可能

　・ただし、マップ上の Tile に一貫性がある前提（つまり同じ Tile を使えば同じコスト）
　・座標ごとに動的に変化するようなコスト（例：燃えて通れなくなる）には不向き
　・初期実装にやや手間がかかる
　・データ管理が増えることで若干の管理コストが発生する

　サンプルコードです。
TileBase の具象クラス Tile を継承して作成しています。
enum については別ファイルとしても作成しても問題ありません。

AdvancedTile.cs

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[CreateAssetMenu(menuName = "Custom/AdvancedTile")]
public class AdvancedTile : Tile {
    public int tileID;                  // タイルのID
    public int moveCost = 1;
    public bool blocksVision = false;   // そのタイルが視界を遮るかどうか
    public TerrainType terrainType;
}

public enum TerrainType {
    Plain,
    Forest,
    Mountain,
    Water
}

　クラス作成後は、Projects 内のメニューから作成します。

　作成された AdvancedTile です。
名称については、Tile に関連する、わかりやすい名称に変えておくといいでしょう。

　インスペクターを確認すると、従来の Tile の情報に加えて、新しく作成した MoveCost などの変数が追加されていることがわかります。
こちらに各 Tile ごとの移動コストなどを設定することで、タイルと移動コストを紐づけた形でのゲーム運用が可能になります。

　作成した AdvancedTile は Tile Pallet にドラッグアンドドロップすることで Tile として登録できます。
通常の Tile と同様に Tilemap として利用可能です。

　こちらの方法が向いてるケースとしては、以下のような場合です。

　・「タイル種別 = 特性」という関係が明確なゲームにはかなり相性が良い
　・データ駆動型、かつエディタフレンドリー(非エンジニア向けにも対応)にしたい場合に強い

　加えて、スクリプタブル・オブジェクトを作成することで、AdvancedTile を登録して一元管理可能です。

TileDataTable.cs

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using UnityEngine;
using System.Collections.Generic;
using UnityEngine.Tilemaps;
using System.Linq;

[CreateAssetMenu(fileName = "TileDataTable", menuName = "Create TileDataTable")]
public class TileDataTable : ScriptableObject {

    public List<AdvancedTile> tileList; 

    public AdvancedTile GetTileDataByID(int id) {
        return tileList.FirstOrDefault(tile => tile.tileID == id) 
}

　なお List の型を TileBase にしておくことで、TileBase を継承している Tile クラスや、ほかの派生クラスも登録可能です。

　以下は AdvancedTile のサンプルデータです。

　このような形で AdvancedTile を複数作成して、Tile Pallet とスクリプタブル・オブジェクトに登録すれば管理可能です。

　こちらの方法４であれば、デザイナーやプランナーの方でも作成・登録・管理が容易にできるようになります。

ゲーム内での運用例

　Tilemap 管理用のクラスを用意し、そちらで移動コストなどを取得するようにしておくと便利です。
利用場所が多岐にわたるのであれば、DI コンテナ化による依存性注入、あるいはシングルトン化しておくとよいでしょう。

　ここではシングルトン化して運用するケースを掲載しておきます。

AbstractSingleton.cs

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using UnityEngine;

/// <summary>
/// 派生クラスに対するシングルトンの基本機能を提供する抽象クラス
/// </summary>
/// <typeparam name="T">シングルトンにしたいインスタンスの型</typeparam>
public abstract class AbstractSingleton<T> : MonoBehaviour where T : Component {

    public static T instance;

    protected virtual void Awake() {
        if (instance == null) {
            instance = this as T;
            DontDestroyOnLoad(gameObject);
        } else {
            Destroy(gameObject);
        }
    }
}

TilemapManager.cs

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using System;
using System.Collections.Generic;
using UnityEngine;
using UnityEngine.Tilemaps;

public class TilemapManager : AbstractSingleton<TilemapManager> {

    public Tilemap tilemap; // Unity の Tilemap コンポーネント

    public TileDataTable tileDataTable; // スクリプタブルオブジェクトをアサイン


    /// <summary>
    /// Grid(セル)位置にある Tile を取得
    /// 必要に応じて戻り値はキャストして利用する
    /// </summary>
    /// <param name="position"></param>
    /// <returns></returns>
    public TileBase GetTile(Vector3Int position) {
        return tilemap.GetTile(position);
    }

    /// <summary>
    /// Grid(セル)位置にある AdvancedTile の移動コストを取得
    /// </summary>
    /// <param name="position"></param>
    /// <returns></returns>
    public int GetMoveCostByTilePos(Vector3Int position) {
        AdvancedTile advancedTile = (AdvancedTile)GetTile(position);
        int moveCost = GetMoveCostByTile(advancedTile);
        return moveCost;
    }

    /// <summary>
    /// AdvancedTile の移動コストを取得
    /// </summary>
    /// <param name="advancedTile"></param>
    /// <returns></returns>
    public int GetMoveCostByTile(AdvancedTile advancedTile) {
        if (advancedTile != null) {

            // TerrainType から MoveCost を取得する場合
            int moveCost = tileDataTable.GetTileDataByTerrainType(advancedTile.terrainType).moveCost;
            return moveCost;

            // TileID から MoveCost を取得する場合
            //int moveCost = tileDataTable.GetTileDataByID(advancedTile.tileID).moveCost;
            //return moveCost;
        }

        return 1;
    }
}

　Tilemap の Grid 座標、あるいは AdvancedTile の情報のいずれかを利用して移動コストを取得するメソッドです。

　Tilemap の Grid 座標がわかっている場合には、GetMoveCostByTilePos メソッドを実行して Grid 座標を渡すことで
自動的に AdvancedTile を取得して移動コストを取得できます。

　AdvancedTile の情報がわかっている場合には GetMoveCostByTile メソッドを直接実行して移動コストを取得できます。

　他にも必要に応じて、TerrainType を取得する、属性情報を取得する処理なども記述していくといいでしょう。

まとめ

　ゲーム制作におけるTilemapのコスト管理は、設計初期において重要な判断ポイントです。
柔軟性と保守性、そして非エンジニアとの連携を考慮する場合、今回紹介したTileの拡張＋スクリプタブル・オブジェクトによる管理方法が非常に効果的です。

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